運動は認知症も予防できる!?
●はじめに
皆さんこんにちは。
前回のブログでは運動習慣が死亡率低下に与える影響、つまり一般的に運動は健康に対してどの程度有効なものなのかについて最新の知見を基に紹介しました。
下記にリンクを貼っておきますので是非ご一読下さい。
https://blog.hatena.ne.jp/rehabili_taro/rehabili-taro.hatenablog.com/edit?entry=26006613712401539
では本日も運動が健康に与える影響に関して述べていこうと思います。
前回もお伝えしましたが、運動には様々な疾患の予防や死亡率を低下させる効果が多く報告されています。
今回は、運動における認知症発症の予防効果について記述していこうと思います。
皆さん認知症に関してはもちろん知っていることと思います。
主には物忘れなどの記憶障害や、物事を順序立てて考え、実行することが困難になる遂行機能障害など様々な脳機能低下症状を呈し、日常生活において介助が必要となることも少なくない病気です。
特に超高齢社会である日本においては、認知症の発症による介護需要の増加は大きな問題となっています。
厚労省が平成28年度に行った国民生活基礎調査を見てみると、介護が必要となった原因疾患の内、なんと認知症は脳血管疾患や骨折・関節疾患を抑えて全体の1位(全体の18.0%)となりました。
この調査から日本においては、認知症により介護が必要となる患者さんの割合が非常に多いことが分かります。
下記に平成28年度の国民生活基礎調査のリンクも貼っておきますので、一度ご確認下さい。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/05.pdf
このような背景から特に日本においては、認知症の発症を予防し要介護者の増加を抑制することが、医療および介護分野における重要な命題であることが推察されます。
しかし皆さんはこのように思うかも知れません。
「認知症なんて予防できる病気なの?」
「歳を重ねるとある程度みんな認知症になるんじゃないの?」
私も運動が認知症発症に及ぼす効果を勉強するまでは上記のような考え方でした。
「認知症は加齢で発症するものだから仕方ない。」
「認知症が発症した後のリハビリやケアを充実させることが重要なのだ。」
皆さんも今までは同じような考えではないでしょうか?
しかし近年では、認知症発症の予防に関する研究が世界中で多く行われており、認知症は予防出来る可能性があることが徐々に明らかとなり、逆に認知症を発症させるリスク要因も分かってきています。
この後にも説明しますが、認知症の発症には、肥満や高血圧などの、いわゆる生活習慣病と密接に関係していると考えられています。
これらの因子は多くの研究で運動によって改善が認められることが明らかとなっていますので、生活習慣病を運動によって改善することにより結果的に認知症発症の予防にも繋がると近年では考えられています。
日本の要介護者の減少や、健康寿命の延伸というトピックスにおいて認知症の予防は非常に大きな意味を持つ分野です。
認知症の発症予防に運動は本当に効果的なのでしょうか?
上記の点について本日は考えていきたいと思います。
今回は2020年に発表された認知症の中でも有名なアルツハイマー型認知症の予防に関する報告を参考にし、運動が認知症発症の予防に与える影響について述べていこうと思います。
●研究の概要
今回はTai Yuらが2020年にアルツハイマー型認知症の発症予防における要因をメタアナリシス(様々な研究をそれぞれの研究の質を評価しながら結果を統合・解釈すること)により検討した論文を参考にしたいと思います。(Tai Yu et al, J Neurol Nuerosurg Psychiatry, 2020)
下記に論文のリンクを貼っておきます。
https://jnnp.bmj.com/content/91/11/1201.long
この研究は、2019年1月までのアルツハイマー型認知症の発症予防に関連する研究(243個の観察研究、153個のランダム化比較試験)の結果からアルツハイマー型認知症発症に効果的な因子や危険因子を検討しており、質の高い論文と言えます。
この論文の筆者らは、アルツハイマー型認知症発症予防に関連する因子を下記のようにエビデンスの強さと推奨度を用いて報告しています。
・エビデンスの強さ(A>B>C)
Level A:強いエビデンス
Level B:弱いエビデンス
Level C:信頼性が弱い
・推奨度(Ⅰ>Ⅱ>Ⅲ)
Class Ⅰ:強く推奨
Class Ⅱ:弱く推奨
Class Ⅲ:推奨しない
論文の筆者らは、アルツハイマー型認知症発症に関係する10個のLevel A(強いエビデンス)とされる因子と9個のLevel B(弱いエビデンス)の要因を報告しています。
下記の表にその中から抜粋した要因を示します。
上記の表で示した項目はいずれも推奨度では、Class Ⅰでありアルツハイマー型認知症予防において行うように強く推奨されるものとなります。
やはりアルツハイマー型認知症は、記憶障害を中心とした認知機能低下を呈すことから、読書などの認知活動を行うことも重要そうです。
一方で、認知活動と同様に特に65歳以上の高齢者の方では、アルツハイマー型認知症発症予防目的に運動を行うことも推奨されています。
さらには、アルツハイマー型認知症発症と関連する他の因子にも注目すると、上記の表からは65歳未満の方には、BMIの増加(肥満傾向)や高血圧がその後の認知症発症と関連するとされています。
先ほども述べましたが、これらの因子は運動により改善を見込めることが、多くの研究において明らかとされています。
実際この論文の筆者らも、アルツハイマー型認知症予防に関連する因子のうち、約2/3は血管系(血圧など)と生活習慣に関係するものであり、良好な血管の状態を維持することや健康的な生活を続けていくことが、発症予防に重要であると強調しています。
これらから考えると運動は、認知症の発症予防にも効果的である可能性が推察されます。
認知症の発症予防には、日常生活において運動を取り入れ健康的なライフスタイルを送ること
が重要であると言えるのではないでしょうか!
●まとめ
・近年では認知症も予防出来る可能性がある疾患と考えられている。
・認知症の発症には様々な要因が関連しているとされているが、運動習慣も重要であるとされている。
・アルツハイマー型認知症の発症予防には、運動習慣などを取り入れ健康的なライフスタイルを送ることが重要である可能性がある。